あひるの仔に天使の羽根を
「……。玲、一先ず芹霞を寝せるぞ」
こんな時。
どうしてお前は落ち着いていられるんだ、櫂。
どうして冷静でいられるんだ、お前。
まるで僕という子供をあやす親かのように僕に微笑み、僕が離さない芹霞を優しく取り上げようとして。
「芹霞に触るなッッ!!!」
僕から出た、激昂した声に。
固唾を呑むような張り詰めた空気が色濃く流れて。
1人動じないのは櫂。
なぜ櫂が此処まで感情を殺しているのかが判らない僕は、それが無性に苛ついた。
「玲。今すべきことは、取り乱すことか?」
いつもの"次期当主"としての沈静さが、酷く僕の癪に障り、僕はかっとして叫んでしまう。
「どうして落ち着いてられるんだよ、櫂!!! 藤姫の…あの紫堂の力を全て弾いたあの力が、芹霞の身体を蝕んでいるんだぞ!!? そしてその力に守られた須臾に、僕は指1本触ることは出来なかった!!!」
僕の預かり知れない領域に、芹霞が居る。
「同じ闇の系統なんだから……お前なら何とか出来るだろう、お前が此処の闇を収めろよ、無くしてくれよ!!?」
お前だけが何か出来るというのなら、早くなんとかしてくれ。
少しでも早く、さあ!!!
すると櫂は笑った。
苦しげに、凄く…儚げに。
「無理…なんだ。俺が介入出来ないほど、この闇の力は大きくて勢いが凄まじい。それが、邪痕を媒介にして芹霞の体内に流れ込んでいる。相殺しようと、下手に俺が芹霞に力を使えば、ほんの少しであろうとも」
途端に、芹霞の身体がびくんと大きく揺れた。
「闇石を体内に取り込んでいない、今の芹霞の身体は…衝撃に堪えきれずに、弾け飛ぶかも知れない」