あひるの仔に天使の羽根を


「方法はねえのかよ!!! どうして、芹霞がこんなことになるんだよ!!?」


ガツン。


凄味帯びた顔で、煌が壁に片手の拳を入れながら声を上げた。


壁は陥没を形成し、ぱらぱらと細かい瓦礫が舞い落ちて。


「………。あるだろう? 須臾が言ってたじゃないか」


どこまでも静かに笑う櫂は、不気味なくらいに落ち着いて。


玲瓏な…深みあるいつもの声に、何故か違和感を感じて。


いつもらしくもない。


そう……いつもらしくないんだ。


「櫂、お前…何考えている!!?」


思わず、問い詰めるように聞き返せば、


「俺が…儀式とやらをすればいいことなんだろう?」


――"聖痕(スティグマ)の巫子"にとって大切な者に選ばせる。"生き神様"を食らって新たな"生き神様"として巫子と生きるか。"生き神様"に食らわれて、"生き神様"の中で巫子と生きるか


「な!!!」


「駄目です、それだけは絶対駄目です!!!」


必死な拒絶の声を発したのは桜で。


「それをして芹霞さんが助かった処で、芹霞さんは喜ぶとお思いですか!!?」


珍しい。


桜が……他人の心情を理由に、必死に櫂に反論するなんて。


しかも相手は芹霞。


桜が今まで一番苦手そうにしていた芹霞だ。


「俺も桜に同感」


煌までもが、桜に同調して。


勿論、僕もだ。


一時的に助かっても、この先須臾の意向1つでどうなるか判らない。


爆弾を抱えて芹霞は生きることになる。


それが根本的解決にはならないと、櫂ならばとうに悟っている。

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