あひるの仔に天使の羽根を
 
私は盛大な溜息をついて、傍の木の枝を折り煌に放った。


「地面に丸を縦に3つ書け。

上から、"神格領域(ハリス)"、"中間(メリス)"、"混沌(カオス)"。

てめえが居る此処が、"混沌(カオス)"。

そしてこの"無知の森(アグノイア)"が"中間(メリス)"との境界のここだ」


まるで子供に教える教師の気分。


「船を寄せようとしていたのが、一番上の"神格領域(ハリス)"。

だがその反対側の"混沌(カオス)"に流れ着いた。

"混沌(カオス)"には旭と月の2人が住んでいる。

ここまでは判るな?」


煌はこっくりと頷いた。


「"約束の地(カナン)"は、ある宗教が浸透している。

"約束の地(カナン)"の創始者である各務翁も、宗教にかぶれたという噂がある。

その宗教と信者が住んでいるのが"中間(メリス)"。

そして"中間(メリス)"が崇める"生神(イキガミ)"が"神格領域(ハリス)"に居る。


招待券を配られた者が船で乗り付けられる場所は、"神格領域(ハリス)"だけだというし、創始者だということを考慮しても、"神格領域(ハリス)"に棲まう"生神(イキガミ)"は、恐らく各務の関係者で、各務は"神格領域(ハリス)"に居ると考えた方が自然だ。

『KANAN』の会場が判らない現状では、開催可能性が高い"神格領域(ハリス)"に向かうのがベストだろう。

それから。この3領域の住民は、宗教の規範(ルール)により、昼はその領域を出ることは赦されないが、夜は他の領域に入ることは認められている。

神聖視されている"神格(ハリス)"は不明だが、少なくとも構図的には3勢力の3つ巴戦、3竦み状態で均衡を保っている状態だ。

"無知の森(アグノイア)"は、"中間(メリス)"と"混沌(カオス)"の境界。故に危険地帯だ。今のように日が翳った時間帯は特に。

――質問は?」


煌が手を上げた。


「宗教ってどんな奴だよ?」


「そこまでは判らない。各務翁が作った都市に、信者まで連れたという事実も確認する術が無い。ここは磁場が狂い、携帯も使えないから外部の情報収集は不可能だ。

――他は?」


また煌が律儀に手を上げた。


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