あひるの仔に天使の羽根を
いつも光景を見ていた僕は、少しだけ…気が紛れた。
この2人もそうだったのかもしれない。
あまりに今在る環境は窒息感が高まり、苦しすぎるから。
その時――
「なあ……いいか?」
腕組みをして、膝元のパソコンを見ながら何やら考え込んでいた櫂が、小さく片手を上げた。
櫂の耳には、今のやりとりは耳に入っていなかったんだろう。
現実逃避をしかけていた僕とは違うその振る舞いに、僕は僕の行動を忸怩たる思いで省みる。
櫂はパソコンを半壊した机の上に乗せて、僕達の方に向けた。
画面には、僕が描いた芹霞の邪痕のペイントが残ったまま。
「これ……何で樹の形していると思う?」
櫂がパソコンを机に置きながら、僕達に訊いた。
「え、関係あるのか?」
煌が殴られた後頭部を摩りながら、怪訝な顔を向けた。
「恐らくな。それから…玲。"約束の地(カナン)"の地形を描いてくれないか?」
「いいけど……」
画面の「新規作成」ボタンより新しい描画キャンパスを表示させて、僕はマウスパッドの上の指先を動かしていく。
「"混沌(カオス)"、"無知の森(アグノイア)"、"中間領域(メリス)"では、お前が助けられた貧民窟、教会、死神が居たという一般街、それから神父達の閨、女信者が居るという街。神父と女信者の場所は、イクミに確認しろ。それから"神格領域(ハリス)"については、ここ各務、須臾の棟、ゲスト棟。主要箇所全てだ」