あひるの仔に天使の羽根を
「はあはあ。まったく…如月の主は、豆ッ娘に厳しいね。ほおら……自分で動けッ!!! ふうふう、流石はキミの主だよ。豆ッ娘の人権無視かよ」
息も絶え絶えの、ぼやきが聞こえた。
「いいか煌。生命の樹というものは、キリスト教やグノーシスの源流となったユダヤの神秘思想カバラに基づく教義の1つを図表化したもので、10個の球…セフィラと呼ばれるものと、22個の小径…パスと呼ばれる線で構成され、人間も神も宇宙も、生命の樹という同一パターンで出来ているとされる。つまり、人間が生命の樹となりきった時、その人間は神となり…宇宙ともなれると言われている」
「は、はあ…」
煌は口を開けたままだ。
「あくまで理論的な話だ。此の世には一定の法則があり秩序がある。同じ原因が同じ結果を生み出すということは、宗教上では"真理"を信仰ではなく知性で認識(グノーシス)出来るということ。つまりそれは、一定の操作があれば一定のものを惹起させられるに繋がる。
各務の…レグの思惑は、恐らく"蘇生"。
彼の死んだ妻子の"蘇生"だ。
魔方陣の力は、せいぜい"死なないようにする"…停滞。生命の樹の力は"蘇生"…巻き戻しだ。神をも恐れぬその行為こそ、"約束の地(カナン)"の存在理由だ」
「じゃあさ、櫂。お前の儀式の位置づけはなんだよ?」
「須臾の私情が大多数だろうけれど、生命の樹が絡むならば…櫂の闇の力を利用して、完成させたいという魂胆もあると思うよ」
玲が口添える。
「桜。食べることで永遠を維持できる方法を見つけた各務翁にとって、"蘇生"は付加価値でしかなく、そしてレグにとっては、死んでしまったものには効果がない"天使"という存在は付加価値にしか過ぎなかった。両者を結んで、そして今の各務の実態に至るまでを画策したのは…恐らく藤姫だろう」
桜はじっと、話す俺を見ていた。
「緋影の身体も、永遠性という意味ではまだ弱い。だから徹底的な…完全な"永遠"を、不死を求めていたんだろう。
事実上、藤姫の実験台にされた土地だ、此処は。
そして藤姫亡き後も、それは引き継がれているのだろう。"白皇"によって」