あひるの仔に天使の羽根を
心に鬩(せめ)ぎ続けるのは、依然とした"不安"。
このまま進むことを反発する俺が居る。
考えろ。
俺が納得いかない理由を考えろ。
考えろ。
考えろ。
やがて――
天啓のような閃きが、曖昧な疑惑の輪郭を炙り出し、それが"確信"めいたものに形を変えていく。
「どうした、紫堂?」
かたかたかた。
キーボードを叩く速度は変わらずして、遠坂は怪訝な顔を向けてきた。
「芹霞の…その傷口は、生命の樹では最上に位置する"ケテル"。地形で言うと…この建物の位置なんだ」
「は?」
「司狼が言ってたよな、魔方陣のうちの1つは損傷しているって。その魔方陣が、もしも須臾の棟の下で俺が見たものだとしたら……」
俺は、芹霞の左肩の服地を思い切って引き下げた。
白い丘に蹂躙する黒の色。
そしてそこには、確かにある――
「生命の樹で言う"ビナー"、即ちケテルの左下に位置する…地形で言うと須臾の棟。芹霞の肩の傷は、邪痕でいえば丁度その場所だ」
出血の痕跡を示す、破裂したような穿痕。
俺の脳裏に蘇るのは、須臾の部屋から見下ろした魔方陣の"皹"。
「遠坂!!! 急いで玲に連絡しろ!!!
魔方陣を破壊するな、戻ってこいと!!!」
俺は慌てて叫んだ。