あひるの仔に天使の羽根を


心に鬩(せめ)ぎ続けるのは、依然とした"不安"。


このまま進むことを反発する俺が居る。


考えろ。


俺が納得いかない理由を考えろ。


考えろ。


考えろ。


やがて――

天啓のような閃きが、曖昧な疑惑の輪郭を炙り出し、それが"確信"めいたものに形を変えていく。


「どうした、紫堂?」


かたかたかた。


キーボードを叩く速度は変わらずして、遠坂は怪訝な顔を向けてきた。


「芹霞の…その傷口は、生命の樹では最上に位置する"ケテル"。地形で言うと…この建物の位置なんだ」


「は?」


「司狼が言ってたよな、魔方陣のうちの1つは損傷しているって。その魔方陣が、もしも須臾の棟の下で俺が見たものだとしたら……」


俺は、芹霞の左肩の服地を思い切って引き下げた。


白い丘に蹂躙する黒の色。


そしてそこには、確かにある――


「生命の樹で言う"ビナー"、即ちケテルの左下に位置する…地形で言うと須臾の棟。芹霞の肩の傷は、邪痕でいえば丁度その場所だ」


出血の痕跡を示す、破裂したような穿痕。


俺の脳裏に蘇るのは、須臾の部屋から見下ろした魔方陣の"皹"。


「遠坂!!! 急いで玲に連絡しろ!!!

魔方陣を破壊するな、戻ってこいと!!!」


俺は慌てて叫んだ。

< 1,070 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop