あひるの仔に天使の羽根を
「くっそ。忘れたいカップルの濡れ場、思い出しちまった」
そう舌打ちすれば、
「さすがの煌も、そっち系は駄目なんだね」
桜の破壊ぶりを満足げに見届けた玲が、皮肉気な笑いを浮かべ俺を見た。
「…玲は肯定派かよ?」
「ん? 本気ならアリじゃない? まあ…本命がいる僕としては、男であれ女であれ、どんなに自棄になっても手は出さないし流される気もないけどね。
それに僕は煌みたいに味見する若さも体力もない。大体僕は1人に尽くして、その相手を堪能したい派だし。あ、桜ちょっと待ってね、由香ちゃんに報告入れる」
そして玲は腕時計を何やら弄り始めた。
さらりと俺への当てつけかよ。
つーか、"1人"にドコまでナニをやらかそうとしてんだよ。
「……ふん、そこまで"堪能"自慢するなら、久遠みたいに、1回で女を色情狂に出来る域に達しているわけ? 女体調理に熱心なことで」
鼻でせせら笑うようにそう言えば、
「熱心? 僕は草食系だけど」
「……お前、何しれっと。あのがっつき具合、肉食だろうが」
芹霞につけた玲の自己主張。思い出して気分が悪くなってしまった。
「そうかなあ、あんな程度で? …まあ、相手にした数はお前の方が上だし、数こなすだけでも極めれるよ、きっと。"あの"域なら。さあ、終わったから次行こうか」
本当に何だ、このさらり感。
"あの"
玲…その域に行き着いているのかよ?
是とも否ともいえないその曖昧な表現。はっと"お試し"事情を思い返せば、強大な敵を前に1人青くなって。
「頼むから…芹霞をその域に連れるなよ?
……つーか、手出しするな、絶対!!!」
そう焦って玲に念押しした時、
「先刻から――…
緊張感ねえことほざくな、腐れ蜜柑!!!
状況把握が出来ないのか、てめえ!!?」
容赦ない桜の膝を鳩尾に深く食らい、不覚にも俺が身体を折り曲げれば、後方から俺の襟首はむんずと桜に掴まれて、それはもう…俺は乱暴にずるずると引き摺られた。
玲は――遙か前方の彼方。
玲は果たして、久遠の域に行き着いているのか否か――その真偽は不明なまま。