あひるの仔に天使の羽根を
 

「それ…血の跡じゃない。櫂…どうかした? …きゃあ、何此の真っ赤なシーツ!!? 服…だから脱いでるの? 血で染まったの?」


お前の血糊だとも言えず曖昧に笑っていたら、芹霞は立ち上がって。


そしてぐらりと身体が揺れる。


「あれ…なんだろ、ふらふらする。タオル…濡れたタオルで、櫂の身体ふいてあげなくちゃ……」


ぶつぶつ言いながら、尚も洗面台に行こうとする芹霞の腕を、俺はくいと引けば、思った以上の軽い感覚で芹霞は俺の傍に引き寄せられて。


「……櫂?」


「怪我などしていないし俺は大丈夫。身体なんてどうでも良いから…今は傍に居て欲しい」


もしも。


最悪な事態となってしまったら。


俺は――


「櫂……離れないよね?」


痛いくらい真剣な黒い瞳が向けられ、俺は縛られたように動けなくなって。



「あたし達、いつまでも一緒に居るよね?」


何か――


感じ取っているのだろうか。


「約束、したよね?」


泣きそうなくらい必死なこの存在を、離したくないと思うのは罪か?


「ああ……約束だ」


俺の存在理由は、お前だけ。


お前に万が一の時、俺は――


ああ、どうして俺は不安が消えないんだろう?



「紫堂、師匠からだ。着いたって!!!」
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