あひるの仔に天使の羽根を
その男の行動は必然。
だとすれば、今此処における出現は、少なくとも意味があるものと、思えばこそ沸き上がる嫌な予感に俺は唇を噛んだ。
「いつもにこにこ歓迎されて嬉しいよ、『気高き獅子』~」
青い神父服。
藍色の瞳。
それより深い青色の髪。
青。
どこまでも冷酷な青に染め上げられた希有な存在。
穏やかさよりは激しさを秘め、1つに留まることを知らぬ…流転する水が持つ色彩のように、何処までも淡々と、何処までも冷たく。
恐ろしいまでの威圧感と美貌を隠すことなく、逆に周囲に誇示し続ける……己が色を強烈に刻みつける男。
俺が推し量れぬ、紅皇と全てにおいて…唯一肩を並べられる、偉大なる存在。
「あ、蒼生ちゃん!!?」
芹霞にだけ、本名を呼ばせている腹立たしい氷皇こと、瀬良蒼生。
「はろはろ~、芹霞ちゃん。暫く合わないうちに随分とほっそりとして大人びたね。ははは、入れ墨(タトュー)なんか入れてどうしたの?」
判っていて。
まず示唆したのは芹霞の邪痕か。
「おやおや、そこにいるのは、すっかり馴染んじゃっている遠坂の由香ちゃんか。ははは、君も苦労するね、色々と。"奴"は横暴だからね~」
奴って…俺か? 玲か?
「……人事のように。あれだけ散々ボクのこと痛みつけてさ」
「ん? 何か言ったかな?」
その顔に浮かぶのは、酷薄めいた色。
この男の機嫌を損ねると、酷い目に遭うことは誰もが周知の事実。
その被害に何度もあった哀れ遠坂は、口を尖らせて押し黙った。
本来なら、氷皇を見ただけで発狂してもいいはずだが、文句で済ませてしまえるのは、遠坂の飄々とした性格故のことなのか。