あひるの仔に天使の羽根を
 
それは冷酷。


完全実力主義でのし上がった者だけが持ち得る、極度の重圧感。


今の俺には、氷皇を凌ぐことは出来ず。


俺は――


「ご無礼お許し下さい。……着替えて、再度参ります」


そう返答せざるを得ない己の境遇に唇を噛み締め。


慣れてきた諦観より、むしろこの"氷皇"という存在に…紫堂を背負う俺は刃向かえなくて。


今の紫堂の立場が安定しているのは、氷皇のおかげだと判っていればこそ。


氷皇の機嫌を伺い、従順な姿勢を取ることこそが、俺のすべき所作なのだろう。


本当は――


芹霞の前で、氷皇に与する態度を見せたくはなかったのだけれど。


「中々潔くて、結構。

成程、紫堂を捨てる気はなさそうだな」


その俺の答えに満足したのか、くつくつと喉元で愉快な笑いを響かせた。


そして隣室で着替えて見せたその衣装に、さらに満足げに笑い続ける。


「這いつくばり、俺に仕えよ」


酷薄な笑いを湛えた、圧倒的力を誇示する存在に、


「な!!!」


不満を爆発させたのは芹霞で。


「櫂を愚陋する気!!?」


憤然と立ち向かう。


「そんなの許さないから!!!」


芹霞に守られる、俺の立場を思えば居たたまれない心地だが、それでも衝動的に氷皇すら敵対する芹霞に嬉しく思ってしまう。


それは以前のような心地よさと…それ以上の心の動きを期待する故か。


芹霞に"恋愛感情"の一部でも伝わったのなら、もっともっと俺だけに心乱して貰いたいと、此の場で思うのは不謹慎なことなのか。




「あはははは~」




すると響くのは、腹立たしいだけの胡散臭い笑い声。



「アカから言われてるんだ。"坊を虐げれば容赦ない"とね。

もう血は吐きたくないから、ここでやめておくよ」


それは揶揄ばかりのいつもの声でもあり、


「此の場での敬意は服だけに留めおく。いつも通りの不遜な口調を許してやる。形式張った会話は、俺自身面倒だ」


そしてまた、愉快そうにくつくつ笑った。

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