あひるの仔に天使の羽根を
緋狭さんの黒い瞳に映る赤い炎。
ゆらゆらと揺らめくそれを見ている僕達に、緋狭さんは静かに言った。
「それらの服の繊維には特殊チップが縫合されている。盗聴までの精度はないが、触れる熱や震動…鼓動などから、中枢部の機械に"生体反応"を返す。
玲が感じられぬ程に、弱い電流の信号を発している」
その言葉に、僕達は顔を見合わせて。
"生体反応"?
「"監視"は刹那の…レグの産んだ突然変異体である人工知能の意思ですか?」
すると緋狭さんは目を細めて。
「人工知能…それには行き着いておるか。しかし残念ながら、偽装たる"教祖"ではなく…もっともっとより世俗的なものの意思だ。"監視"よりも"追尾"の意味合いが強い」
追尾?
見張られているのではなく、泳がされているというのか?
「しかし何でまた、こんな手の込んだ…」
服を提供したのは各務だ。
だとすれば、各務が僕達を"追尾"していたと?
「閉塞的な"約束の地(カナン)"運営には、莫大な維持費がかかる。各務の資産も限界がある為、レグは会社をうちたて、収益の全てを維持費に回した。
元々レグは、失った娘の代理として、より人間に近い"感情"を持つ人工知能を開発していた。それが停電によって変異的に"成長"続け、世俗ウケする"モノ"のネットリサーチ、ゲーム開発、会社経営管理など自らの意思にて活躍し…"ついに約束の地(カナン)"を掌握しようとするまで手を伸ばした。
ベースはレグの"愛情"だ。故に親の愛に報いたいという殊勝な"心"により、親の為に金の卵を開発、そして刹那という親の名の教祖を騙り、此の地の住人を宗教という名で縛った。各務同等の"権力"で親を護る為に」
電子の愛情を歪みと取るか、崇高ととるか。
親への情を"恐怖"としか考えられない僕にとっては、理解しがたいものだ。
「…玲は残念だろうが、格闘ゲームの考案開発は、全て人工知能の創出だ」
「いえ…82歳という高齢開発ではないことの方が安心しました」
僕はそう苦笑した。