あひるの仔に天使の羽根を
 

「しかしそうした資金もいつかは潰える。ならばその前にと、各務翁はレグと定期的な"ゲーム"を考え、莫大な賭博金を搾取していた」


賭博?


「ゲームは観客を楽しませるものでなくてはならぬ。故にお前達は、本当に"死にかける"必要があった。

その相手がいないのなら、同士討ちもやむを得なくなる。

その事態を避け、同時にアオの密偵という嫌疑をかけられぬよう、榊が動き…桜が傷を負うこととなった」


「では、東京で私に会ったのは……」


顔を歪ませる桜の前で、榊は余裕顔で会釈する。


「全ては我が主の仰せのままに。まあ…私自身、『漆黒の鬼雷』に興味ありましたし初顔合わせの意味で。また幸いにも…"約束の地(カナン)"では沿岸警護の役目につけたおかげで、適当な理由をつけて海に出ても不審がられず。幸い、泳ぎは得意ですし」


緋狭さんや氷皇を手引き出来たのも、そのお役目故か。


氷皇が選別した男なら、人外の強さを秘めていても不思議なく。


思えば榊とは、誰もが真剣な闘いをしたことがない。


それは榊の意思故か、更には上の意向なのか。


本気の手合わせしたならば、僕達は無事ではすむまい。


それだけの実力者だと、僕は推察する。


「じゃあ敵じゃねえって始めから言えばいいじゃねえかよ!!! 紛らわしいことしやがって!!!」


「言ってたじゃありませんか。

"父と子と精霊との御名において"と――」


「はあ!?」


僕は苦笑して、煌に言う。


「此の土地においての宗教は"善"と"悪"というような、対立する2つのもの…二元論が採用されている。だから…"父""子""聖霊"の三位一体の思想はありえない。それがまかり通るのは基督教…いわゆる此処の主軸たるグノーシス教と対になるものにおいてだ」


ありえないんだ。

此処の神父が、そんな祈りをするのは。

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