あひるの仔に天使の羽根を
「判るわけねーじゃねえか!!! な、桜!!!?」
同類とされた桜は、またもや不愉快そうな顔をしていたが、否定はなかった。
「待てよ? じゃあ、俺の腕に毒盛った、あの白服の女も……?」
褐色の瞳を険しく細めた煌に、緋狭さんはゆっくりと首を横に振り、
「蓮は…別口だ。"あいつ"が動かねば、榊が動いていただろう」
緋狭さんは今――
"誰"を思い浮かべていた?
「飽くなき欲に塗れた…遊戯ゲームには、観客はつきものだ。
観客は己の欲の為に大金を賭け、快楽という等価を求める。
ゲームの登場人物は、ゲームにおける己が存在理由を知らず、だからこその滑稽すぎる必死さに、あざとい観客は手を打って喜ぶだろう。
――玲。
外部からの招待客は、選ばれているのだ」
僕は、目を細める。
「ゲーム当選者のことではないですね。…だとすれば、僕達…或いは」
僕の脳裏に思い浮かんだのは。
「来賓席に居た…彼ら?」
緋狭さんは艶然と笑う。
それは――肯定。
「お前達に悟られず、真剣に"死にかけて"貰う必要があった。緊急措置とはいえ、お前達には悪し事をしたな。そこまでしないとシロに感付かれる…まあ、これは言い訳にしか過ぎぬだろうが」
「それでも、貴方は僕達を見捨てては居ない」
そう。
僕達が命繋いでいたのは、僕達を見守る温かい目があったからこそで。
直接的なものでないにしても、生きながらえた起因は…必ず紅皇に結びついているはずだから。
それが判ればこそ、感謝の念はあれ、恨む心など何もなく。
「気にすんな?」
煌があどけない笑いを見せた途端、桜はその態度に腹を立てていたようだけれど、誰も彼もが判っている。そして誰も彼も、紅皇に刃向うつもりはない。
僕達にとって、紅皇は…緋狭さんは、絶対的信頼の象徴なのだから。
そんな僕達を見て緋狭さんは、ふわりとした艶やかな美しい笑みを見せた。