あひるの仔に天使の羽根を
「さて、紅皇。もうお時間かと」
榊が一礼して声をかけてきた。
「そうだな。では行くか」
緋狭さんに先導されるようにして全員駆けた。
「玲。お前が好きな"KANAN"という疑似格闘ゲーム上での、主要天使と悪魔の名前を覚えているか?」
それは突然に。
「天使10体、悪魔10体…何故それらが選ばれたのだと思う?」
僕は目を細めた。
「偶然ではないのだ。その選別は。
だからだ。
お前達が巻き込まれたのは。
全て――必然に」
"天使"と"悪魔"。
二元論に基づく、2種が10体ずつ。
――神を信じぬ桜、愚鈍さを嘆く煌、残酷さに怯える玲、貪欲な坊、拒絶する芹霞。無感動の久遠、美醜に囚われた須臾、心が不安定な千歳、禁断の色に走る柾、此の地に君臨する樒。
10の意味するところは?
――そう、カバラ。生命の樹だ。
含みある言葉の先に、"それ"の可能性があることを、僕が僅かに思い至った時、突然緋狭さんは足を止めて口早に言った。
「さて、ここからは3方向に分け、"神格領域(ハリス)"、"中間領域(メリス)"、"混沌(カオス)"にて待機だ。お互い示し合わせて順に破壊する」
「え? ですが、石の扉は僕と煌しか開かず、魔方陣は桜しか…」
時間短縮の効率の良さは、現実に存在する人数には敵わない。
「玲。何のために私と榊が居る?」
にやりと、緋狭さんは笑った。