あひるの仔に天使の羽根を
「えええええ!!?」
声を張り上げたのは芹霞で。
俺は――
だから遠坂が、強気で各務に居残っていられたのだと思って。
彼女の身の保証は、榊がしていたようなものだったんだ。
「ボクも、此処に来るまでは知らなかったんだよ、本当に!!! ボクは家出少女だったしさ…だけど居たんだよ、兄貴が!!!」
――由香、黙っているんだよ。
「昔からあの人怒らせると怖いんだよ~。何でこんな"悪"の手下になっているか判らないけど、いやこんな"悪"だから手下になったのかな。榊兄まで家出してるのなら、今ボクの家はどうなってるのさ~」
嘆き悲しむ遠坂の前で、青い"悪"は冷酷に笑っていて。
2ヶ月前。
遠坂を引っ張り込んで、今俺達の中に放ったのも、もしかすると"兄妹"だからこそだったのかもしれない。
「だけど、どうして葉山に手出しさせたのさ、氷皇!!!」
遠坂の憤りに、氷皇は笑うばかりで。
「あいつが手出ししなければ、俺かアカが手出ししていた。どちらがマシかな?」
つまり、桜の負傷は…桜の"死に目"は、必然なのか。
「榊の話はここまでだ、話を戻す。
藤姫の血を引く双子は…体外受精の上でビーカーにて培養された。
それは天使と人間の間に子供が成せるのか、"実験"という形でな」
「……天使? ……!!!
藤姫は、当時…天使の…有翼人種の肉体に目をつけたのか!!!」
「そ。だけど上手く行かなくてね、色々試した挙げ句に決定したのは、1つの負傷した肉体。そして天使の飼育に不可欠なレグを取り入ろうと、色仕掛けで迫り、夫婦の真似事をした。
結果生まれたのがシキミ。
愛情などまるでなく…堅物なレグに愛想をつかし、裏では別の男との間に陽斗まで作ってな。
さすがに妊娠が発覚した時、レグは離縁した。
そしてその愛情を娘1人にかけたのだ」
――それは確執であり固執であり…偏愛だ。