あひるの仔に天使の羽根を
「藤姫はその肉体を捨てた。肉体の寿命と言うよりも、損失多い肉体の動きが悪い上、元の肉体の意識が残り、制御しにくかったらしい。
それだけ愛していたわけだ、各務翁を」
「それは…各務翁に肉体を食わせた…女か?」
「あはははは。そうだよ、愛という名において、愚かしい女は男に"禁断の果実"を食わせ、"永遠"を取り憑かせ、人間という"エデン"から追放した。
女はその後も四肢を食われて胴体のまま、"生きながらえて"いる。
仲間の養分を命の糧として、幾度とも無くその子宮から、天使を増殖させられても、本人は幸せそうにしているらしい。愛は何て滑稽だ、はははははは…ああ、話を脱線してしまったな。実験サンプルたる陽斗の兄姉は、どこぞやの施設のような扱いしか受けられず、少々ひねくれて育ってしまってな、そして片割れの精神性に異常が見られ、懐柔難しく"混沌(カオス)"に隔離したらしい。2組ともな」
――きゃははは。
「2組!!? 旭くんと月ちゃんは双子だって!!!」
「断定したのかい、彼らは。自分達が双子だと」
――ユエの"きょうだい"というものです。
それは"誰か"から教えられたというように。
双子かと聞いた時、確かに旭の顔はきょとんとしていた。
「ちょっと待って、頭混乱する。仮に仮にね、旭くんと月ちゃんが双子じゃなく、もし仮に…司狼と蓮がその片割れ同士だとして、」
――お前の姉を死に至らしめた憎い奴だろ?
――ならば壊された兄の為にお前は動いているというのか、司狼?
「ああ、1つ確認させてね、芹霞ちゃん」
にっこり、嘘臭い笑いで氷皇が口出しする。
「旭の片割れは蓮。月の片割れは司狼だから。同性の双子」
「は!? だ、だって蓮は姉がいて、司狼には兄がいて……」
もう芹霞は泣き出しそうだ。
「だから、そうなのさ。
旭は女、月は男。
それは君がよく知るだろう、芹霞ちゃん?」
――旭くんは羽根の生えた女の子だったし。
そう――笑った。