あひるの仔に天使の羽根を
そうした経過を含め、情報は随時、玲様から櫂様の元へと伝わっていることだろう。
櫂様はどう思っているだろうか。
緋狭様と榊、月という意外な助っ人のおかげで、少しでも苦しみに満ちたお顔を楽になされただろうか。
ああ――
私1人だけでは成し得ないこの速度と正確さに、私という存在が如何にちっぽけで頼りなく、弱々しいものだと…忌まれただろうか。
私は――
「緋狭様…桜は……
慢心していたようです」
唇を噛みしめながら緋狭様に告解する。
人が私を見たら、それはきっと"懺悔"だと受け取るかもしれない。
きっと私の声は震えていただろうから。
「五皇に敵わぬのは当然ながら、櫂様玲様以外に…桜の実力が及ばぬ者が存在する事実。ましてや榊は…氷皇や緋狭様の命により、手加減していたのでしょう。裂岩糸が顕現出来なかったから敗北したなんて、ただの言い訳。
……認めざるを得ません、私の力不足を。それで紫堂の警護団長を名乗っているとは、なんて烏滸(おこ)がましい……。
もし…よろしければ…。
お時間がある時でいいですから…」
私は、固い決意をもって緋狭様の黒い瞳を見つめた。
「桜を…鍛えて頂けませんか、緋狭様。
桜は……強くなりたいのです」
誰もが敬仰する、その黒い瞳は…何処となく私の黒曜石を彷彿させて。
しかしあの無機質な光ではなく、力強い赤の色彩を揺らめかせて。
呑み込まれる。
それは、私と紅皇との…圧倒的な"存在"の差。