あひるの仔に天使の羽根を
此の地の壊滅。
だけど、それもおかしい。
元々、常識や情とは無縁な男だ、紅皇の持つ"正義心"などからは縁遠く。
大体、破壊だけが目的なら、僕を助けてあんなメッセージを送るなど回りくどいやり方をせずとも、さっさと…緋狭さんと、潰しにかかればいいだけの話で。
榊もいるのだから、魔方陣は破壊できるはずだ。
それをしなかった理由。
考えられることは…
僕達の動きを氷皇は望んでいたと言うこと。
白皇だけではなく氷皇にまで、僕達は利用されていたということ。
僕達は――"囮"か。
「今回は、"取り締まり"の色の方が幾分強いらしいですよ? あの方なりに苦労はされているんです、何せ紅皇の監視の目もありますからね」
"今回は"
藤姫という主(マスター)を無くした今でも、引き続き何かの"目的"の為に動いていると、そうとも受け取れる言葉を残して。
確かに、藤姫如きが氷皇を従えられた事実は、驚愕に価するとは思うけれど。
氷皇の真意を判っているのは恐らく、この榊と緋狭さんだけだろう。
氷皇がそこまで心を許す、榊はそんな腹心と言うことか。
「あ、そうだ。我が妹が随分とお世話になりまして」
突然切り換えられた話題に、
「……妹?」
訝り、反芻するように聞き返せば、
「ええ、ユカです。あの子の居場所を作って頂いたようで」
ユカ…?
「………。……!!!
――…ええ!?
ゆ、由香ちゃんの…ええ!?」
「はい、兄です」
僕の激しい動揺に対し、何でもないというように榊は受け流す。