あひるの仔に天使の羽根を
――こんな処で危ないじゃないか。いつ誰に襲われるのか判らないのに。
――ああ、ボクなら大丈夫さ。絶対にね。
「あははは。貴方は冷静でいるようで、不意打ちには弱いらしい」
否定…出来ないところが悔しいけれど。
しかし…兄妹。
兄妹か…。確かに似て無くはないけれど…。
「由香は一風変わってますけれど…可愛い女です」
そして気づけば、僕の目の前に。
「随分と…由香は貴方を慕い褒めていましたが……
手を…出さないで下さいね、"師匠"?」
その目は…冗談にも思えぬほどの鬼気を添えて。
「今は故あって遠くに離れていますが…
遊び半分にでも手を出したら…容赦しませんよ?」
それは"兄"の持つ目とは違う。
ただの"溺愛"とでは片付けられない…狂気に満ちて。
同じ"狂い"だけが察することが出来る、複雑で…単純な感情。
「兄妹、なんだよね?」
一応……聞いておく。
「はい。ばっちり血は繋がっています。それが何か?」
にっこり。
それまでの狂気を見事に払拭して。
…僕と同じ属性か、こいつは。
「だから……か。
存在自体、妙に神経に障るんだよね」
溜息交じりに毒づけば、
「それは同感です」
榊の顔は思い切り嫌悪に歪められ…
きっとそれは今の僕と同じ表情で。
反発と同時に感じる奇妙な連帯感。
恐らくだけれど――。
秘めたるものが、"同種"だからに違いない。