あひるの仔に天使の羽根を
「……判ったよ。由香ちゃんが僕に懐いた理由」
僕は……似ていたのか。
顔形ではなく、"諦め"と"我慢"。
僕の"癖"から彷彿したのは、兄の姿か…彼女自身の姿か。
もしかすると彼女が虚構世界に走ったのは、悩めるが故の"現実逃避"…?
報われぬ愛。苦しい恋。背徳感。
だからこそ、それにもがき打開しようとしている僕を、応援しようとしたのか?
恋敵と血の繋がりを秤にかけて、どちらが不毛な恋愛をしているのかなどいう、虚しい不幸自慢をする気は毛頭ない。
僕は僕で、由香ちゃんは由香ちゃん。そして榊は榊。
誰も"同情"は望まない。
傷を舐め合うだけの"温情"…僕にはいらない。
欲しいのは…前に進む勇気、だけ。
「言っておくけど僕は、倫理だとか道徳だとかそういうのは一切気にしないから。どうぞ僕にお構いなく?
だけど――
僕も一応…釘刺しておくけど、」
僕は彼の肩に手を置き、その耳元にすっと唇を寄せて。
「芹霞に手を出したら…許さないよ?
手を出そうとしただけでも、本気で殺りにいくからね?」
僕の"感情"を乗せて、にっこりと笑って見せた。
多分――
相当"えげつない"んだろう。
いつも余裕ぶっている榊の…少し引き攣った顔を見て、何だか僕は…気分がよくなった。