あひるの仔に天使の羽根を
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僕達の役目が終わったからといっては安心できない。
煌の方が終われば、恐らく榊経由で緋狭さんから連絡がくるだろう。
それをゆっくり待っているような、そんな心地になれぬ僕は、
「煌の処を覗いていくよ」
あいつを信用出来ないからではない。
僕は自分の目で、"終了"を確認したかった。
例えそれが…自己満足にしかすぎなくても。
氷皇の元に戻ると思いきや、榊もついてきて。
僕の邪魔をしないのであれば、特別拒否する理由もなく…足早に"混沌(カオス)"目指して移動する。
途中、僕の時計の電子音が鳴って。
今までも鳴る度、その相手が誰だか判っているらしい榊の顔がぴくりと動いて、僕の表情を覗うのが面白いけれど。
「由香…今度は何ですって?」
目を細めて深く考えて込んでしまった僕に、痺れを切らしたように榊が尋ねてきた。
「んー、櫂からの無茶な注文2つ。
あいつ…何考えているんだろう?」
櫂の元には氷皇がついている。
彼の行動は、"必然"だということ。
だとすれば。
櫂にしか出来ない何かが、恐らくあるのだろう。
その上で考え抜かれた注文なんだろうけれど。
僕は"とりあえず頑張る"との言葉を返しながら、その無茶ぶりを嘆く溜息をつくと……きゅっと月長石を握り締めた。
櫂が不安なのは判る。
僕もそうだ。
だけど最低限、此処での…生命の樹の魔方陣破壊は必要なのだと、緋狭さんが言うのなら、早く…目的を達したい。
そしてそこから現れる事象に対する、明確な解決方法がまだ出てなくても…僕達は今出来る全てに力を注ぐしかない。
至近の未来に心を砕くしか、今の僕には…まるで余裕が無くて。
それとは無関係に思えるものを欲する、櫂の考えを冷静に紐解くことが出来なくて。