あひるの仔に天使の羽根を
 



「煌!!?」




僕は吼えるようにその名を呼び、暁色の髪の毛をした煌に馬乗りになった…司狼の金色の髪を後ろから鷲掴み、肘でその首筋を打ち付けた。


致命傷にはなりえなかったが、舌打ちした司狼は煌から飛び退いた。



「悪ぃ……」



けほけほと咳をしながら、煌が態勢を立て直す。



「チビは…行かせたから、破壊終われば…"無知の森(アグノイア)"で最後だ」


褐色の瞳には、強い意志がある。


足止めをしていたのか。



「待つ間でもありませんね。私が代理しましょう。完了確認が出来ませんから、少し余裕をみて向かったほうがいいでしょうね」


榊が笑いながら、ゆらりと動く。



「あ~、やっぱり裏切っちゃうんだ、榊さん」



司狼は愉快そうに言い放つ。


まるで榊の正体が始めから判っていたというように。



「だけど、その"裏切り"さえ…あの方が見越していたら、どうする?」


意味ありげな笑い。


「榊さんが大好きな大好きなあの娘が、どうなっちゃうかな~?」


途端、榊の目の色が変わり、気づけば司狼の胸倉を掴んでいて。


そんな衝動的な彼に驚くも、それすら司狼は判って楽しんでいるフシがあって。


「氷皇がついている、大丈夫だ!!」


僕がそう言えば、


「うふふふ。氷皇が何さ。あの方の頭のキレの方が上だよ。大体さ、氷皇も気づいていないんだよ? だから、白き稲妻の手当てを頼んだんじゃない」


「な!!!」


僕は煌と顔を見合わせた。



「そりゃあ"彼女"も、そんな存在だっていうことすら、気づいていないだろうけれどね。自覚あれば、ばれちゃうからね~」


イクミ。


彼女は――


"白皇"の息がかかっているのか。


「で、榊さん。どうする? それでも僕達を裏切って、そっち行っちゃう?」



残酷な選択だ。



だけどこっちだって、引けぬ理由がある!!!



その時だ。





――カラーン。





無情な音が鳴り響いて。
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