あひるの仔に天使の羽根を

・貪欲 櫂Side

 櫂Side
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――カラーン。



その音が鳴り響いても、不思議と戦慄は感じなかった。


やはり……来てしまったか、という諦めにも似た静かなる情と、ようやく来たか、という好戦的に扇動された…激しい情。


相反する2つの情の中、俺は至って冷静にその鐘の音を耳にしていたと思う。


「……櫂…」


不安げに揺れる黒い瞳が俺を見上げていて。


「逃げて…お願い。あたし絡み…なんでしょう? あたしなんかの為に、"食う"だの"食われる"だの……絶対駄目だから!!!」


芹霞も…ぎりぎりまで待っていたのだろう。


必ず煌や玲、桜が何とかしてくれると。


だけど――



――カラーン。



「あいつらのやったことは決して無駄ではない。俺に繋いでくれたんだ。

だから俺は――皆の期待に応えるよ。

逃げても何の解決にならない。ここからは俺の…正念場だ」


俺は不遜にそう笑った。


「へえ? 随分と自信満々だね、気高き獅子。多くの手があっても間に合わず時を迎えてしまったのに、君は何とか出来るんだ、1人で」


嘲るように、揶揄するように。


俺という存在を矮小のものだと見下した氷皇の表情と口調を、俺は真っ向から見つめ返して。



「ああ…。秘策は……ある」




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