あひるの仔に天使の羽根を
ねえ櫂――
「あたしは待つだけの女じゃないから」
それはあたし絡みなんだね。
あたしが傍に居たら困ることを、櫂はしようとしているんでしょう?
内容までは判らないけれど、だけどね?
櫂はあたしを見くびっている。
「どんな事実があっても、もう逃げたくない」
それは櫂に向けて。
これ以上、あたしを置いて1人で全てを背負おうとしないで。
全てを拒絶してばかりいた、我儘でどうしようもない弱い女だけど、だからといってそれに甘んじて、何も見ていなかった振りをして…櫂の優しさに甘えてばかりはいたくない。
2ヶ月前に知った、あたしの8年間。
あの時のような、あたしの知らない世界を作らないで。
もっともっと教えてよ、櫂のこと。
まだまだ知らないの、櫂のこと。
あたし達は、対等の関係。
主従の関係ではないのだから、あたしは櫂と一緒に"今"を受け入れたい。
ぬくぬくとした処に1人で居るのは嫌だ。
判っているよね、あたしの性格。
憂いの含んだ切れ長の目。
漆黒の瞳は、ゆらゆらと揺れて。
何惑うことがあるの、櫂。
「あたしは、一緒に居たい」
そう思うのは、あたしだけ?
その時、櫂は――
ふっ…と笑った。
それは一瞬だけれど……。