あひるの仔に天使の羽根を
 
「支度があるから、先に行くけれど…儀式の会場は"深淵(ビュトス)"の塔。

判るわよ、"その時"…一番高い塔だから。儀式が始まる時間は、貴方にも"判る"と思うわ、尋常ではない"騒ぎ"になるから。それまでに心が変わったのなら、参加なさらなくても結構。来るというのなら、塔までの貴方の身柄は保証して上げる」


"塔まで"

その先の保証は、ないと言いたいのか。


「行くわよ!! 誰が逃げるもんですか!!」


「そう? ふふふ、後悔しないでね? ではまた」


そして須臾は、櫂を共だって視界から消える。



「神崎~、なんちゅーことを約束したんだい!! 皆神崎を危険から遠ざけようとしていたというのに!!」


由香ちゃんが嘆く。


「…ねえ、由香ちゃん。危険ってさ、遠ざけるだけが解決法?」


「は?」


「近くにいれば守れるものもあるよね?」


「神崎?」


「ううっ…やられたかな、櫂に」


唸りだしたあたしに、由香ちゃんはわけが判らないという顔を向けて。


キーボードから手を離してあたしを見ていた程だ。


「あいつさ、笑っていたのよ。あたしが一緒に居たいって言った時」


「神崎に言われて、純粋に嬉しかったんじゃないのか?」


あたしはふるふると頭を横に振る。


「嬉しい顔じゃなくてさ、思い通りに事を動かす、超然とした不敵な…『気高き獅子』の顔だったの。更にさ…"してやったり"っていう…意地悪モードも入ってた」


「???」


「悔しいくらい、櫂はあたしを判ってる。

あたしの性格上、"はいそうですか、頑張って下さい"って簡単に櫂を見送ることが出来ないの判ってて・・…はあっ。櫂は元からあたしも一緒に連れる気だったんだね。あたしに啖呵きらせて、須臾に決断させて、櫂は安全圏の…何ともいい図よ。まんまと乗せられたわ。…ま、いいけどさ」

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