あひるの仔に天使の羽根を
ちょっと待てよ。
蓮っていうのは、確か俺に腕切りつけた…陽斗そっくりの女で。
旭っていうのは、月よりも聡明そうな…月の双子の兄で。
蓮と旭が双子なら、同い年!!?
「待て待て待て!!! 何を何処から問い質せばいいのか判らねえけれど、まず旭は死んだんだ。髪切られて、串刺しにされてな」
忘れるもんか、俺の目の前で旭は――。
「だから、月を使ったんじゃない、そこの旭は」
「ああ!?」
「どうせ"時期"だと託(かこつ)けて、食ったんでしょう、月の身体を」
「はあああ!?」
チビ陽斗は何を言っているんだ?
しかしチビは何も言わず。
子供にしては、いやに大人びた…厳しい眼差しをチビ陽斗に向けて、沈黙を守っていて。
否定しないのは事実だから?
理解出来ないから?
「気高き獅子だって暁の狂犬だって、腕の傷治癒出来たでしょう? 旭が持つ…月の片翼と以前抉った肉から作った軟膏…翼がどうのいうよりも、有翼人種の肉は傷なんか直ぐ回復するからね。ましてや口から直接取り入れた肉の養分は、ダイレクトに傷口や損傷部分に染みこむ即効性がある。
旭はね、生きる為に僕の片割れの月を食べたんだよ?」
「お前の…片割れが月!!?」
「僕の兄はその"女"に、生きたまま壊された」
細められた金色の瞳。
「僕が…その残骸を回収したんだ」
一筋横切る光は――憎悪。
「紫堂が…此の地に来たから。だからこんなことになったんだ。僕達は同種喰いなんてする下賤な存在じゃなかったのに!!!」
それは悲痛な叫びで。
「旭がお前達を…あのお姉さんを守り抜く約束を…していたが為に!!!」
――旭くんは羽根の生えた女の子だったし。