あひるの仔に天使の羽根を
この旭は…13年前芹霞と関わった奴なのか?
どんな理由で羽根を失い、性別を変えた物言いにしていたのか、そして現に今も、どうして月の真似をしていたのは判らねえ。
芹霞とどんな約束をしていたのかも判らねえ。
だけど。
此の地での"女"に優位性があるのだとすれば、"目的"がある以上は、"男"のフリをするよりも動きやすいことは確かだろう。
何を拠り所にどう判断すべきなのか判らねえけれど、今の俺の頭には警鐘の音が鳴り響いている。
「おい、チビ!!! お前先に魔方陣ぶっ壊せ!!!」
此処でぐだぐだ喋っている時間ねえんだよ。
「俺がここで引き留めてやるから、速攻2つ!!! 片付けろ!!」
そして俺は、チビを蹴り飛ばす。
「行けッッッ!!!」
いつになく固い顔をしたチビの身体が跳ねると同時、俺はチビ陽斗の動きを見逃さず、遮るようにその方向に身体を動かし、
――ガシィッ!!!
チビ陽斗の足と俺の腕がぶつかり合った。
くっそ…小さいのは身なりだけかよ。
「……。腐っても制裁者(アリス)だね、BR002」
金色の瞳に浮かぶのは、明確な侮蔑な情。
「お前、何で制裁者(アリス)のこと、知ってる!!?」
身を捻るようにして中段に突き出された拳を、俺はその手を偃月刀の柄で払い落とす。
「そうだね…陽斗の前は、僕がオリジナルだったから。まあ…"あの女"が緋影の男との間に陽斗を生み、その血故の…意のままに操れる"制裁者(アリス)"を作ろうとしていたのなら、"あの女"が入る前の肉体の卵子と正体不明の精子が結合されただけで生まれた僕の身体には、"あの女"の血は一切流れていないからね。かなりお気に召さなかったようだよ、はははは」
意外にすんなり答えたけれど。
だからなのか、何となく判ってしまった。
こいつの中の闇。
「陽斗はマシだよ。まだ"女"の腹から生まれただけに、"人間"として扱って貰えてさ」
ああ、こいつも…
陽斗と同じように、抜け切れていないんだ。