あひるの仔に天使の羽根を

「な、何だ!?」



壊れたような鐘の音は依然続き、私達は思わず立ち止まって音の先を探す。



しかし音叉の様にあちこちで反響しあう音の出所が何処か、あまりの騒音に集中力が乱されて特定が出来ず、更に聴覚を狂わされていることにより、五感を司る脳が直接かきまぜられているような…不快感が著しく。


「ぐ、あ、う…うるせえッ!!!」


私も煌と同じように両耳を手で塞いでいたが、対して効果はないようで。



三半規管が壊れそうだ。



視界が歪み、足元がぐらぐら揺れ…地面が波打っている錯覚。


――錯覚?



違う…これは…!!!




「煌、地形が変化している!!!」




身体の重心がおかしいのは。


自分で自分を支えきれないのは。



それは音と重力の狂いが同時に起きているためだろう。



「地鳴り!!?」



ゴゴゴゴという轟音が響かせ、確かに地面は動いているのだ。


よからぬ予感に胸が苛む。


大丈夫だろうか、櫂様、玲様、そして…


「芹霞のトコいかなきゃ……」



馬鹿蜜柑が依然苦痛に歪んだ顔をしながら、よたよたと駆け出した。



「俺が守らなきゃ……」



誰かに守られるような情けない姿で、守りに行こうとする馬鹿蜜柑。


そして私もまた、そんな姿で馬鹿蜜柑を追いかける。


私の声をかき消す轟音は、やがて消え。


同時に鐘の音も…重力変化も止まったようで。


蘇る平衡感覚に安堵し、深呼吸1つして辺りを見渡せば、



「!!!」



目の前にあるのは、以前抜けた鏡の迷宮で。


否――


少し風体が異なり、



「地面が……鏡!!?」




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