あひるの仔に天使の羽根を
 

案の定、旭はほっとした顔を見せ、そして、僕の問いに答えるように、この場所の地形を掻い摘んで説明してくれた。


「珍しい。此処にヒトが流れつくなんて」


旭は――先住者だった。


次いで現れたのは桜で。


男装のまま僕達を探索していたらしい。


その明らかに"男"の格好に、旭は固い顔をした。


桜にいつも通りの格好をさせた方がいいのか。


少なくとも女性のような長い髪を見せれば、旭の警戒心が解けるのだろうか。


僕の心は、『否』と答えた。


鬘をとることで安易に性別変換が成されれば、僕も疑われるかもしれない。


僕だけではなく、他の皆まで。


危惧すべきはこの地域の情報収集の皆無ではなく、この旭の信頼を損ねることに対して。


僕は、僕自身でさえ判らぬ不可解な警戒を、こんな小さな子供に抱いている。


僕は桜に言った。『男装を解くな』と。


桜は躊躇う素振りを少し見せたが、僕の指示に素直に従った。


そしてキャリーバックを抱くようにして波打ち際でぜいぜい息をしていた由香ちゃんを見つけた。


「女の子に、きっついわ~」


男装というよりはボーイッシュな格好をしていた由香ちゃんは、何故か関西弁で漏らした"女の子"という単語で、旭の警戒心を解いた。


やはり――性別に拘っていると確信する。


そして旭を含めて、僕達は残る3人の探索に出かけた。


行けども行けども果てぬ海岸線。


反対側には暗い森。


入らずとも邪気が感じられる禁忌の地域、"無知の森(アグノイア)"。


他にあるのは、一軒の粗末な丸太小屋。


そんな時、月に襲われている煌を見つけ、そして芹霞と櫂を見つけた。



< 117 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop