あひるの仔に天使の羽根を
 
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トゲトゲの形状から円筒状に変わったとはいえ、依然、漆黒色に赤い線が走る外壁は変わらない。


それが妙な安心感を覚えさせるから不思議だ。


暫く螺旋階段を登らせられて、やがてあたしが通されたのは、これまた外装からは不似合いな純和室で。


神崎家全室を繋ぎ合わせても足りないくらいの広過ぎる畳の上に、正方形状の板敷き…神社とかで巫女が舞う…所謂神楽というものが設置されていた。


基督教もどきだ魔法だ何だと西洋的なものを見ていたあたしには、日本古来の宗教が混在しているこの場は、混沌以外の何ものでもない。


神楽の周りには、各務樒、柾、千歳が着物姿で鎮座している。


皆、異質なあたしを振り向きもせず…そもそも気づいてすらいないのかも知れない。


これからの儀式に望む割には、少なくとも以前のような活気付いたリアルな表情がない。


嫌なんだろうか。


嫌なら反対すればいいのに…と思うけれど、乗り気だと聞いた樒すらそんな表情なのだから、心はともかく、そんな顔にしているのは理由はあるのか。


これならば、まるで以前の"中間領域(メリス)"に住む女達の表情に近く、そして今では、外界の女達の方が以前の各務の連中のように表情豊かだ。


各務の内と外で、おかしな逆転現象がおきてしまっている。



そして――


特徴的な大きな鼻。


千歳は…死んだはずだったのに。


どくん、と警戒の心臓が鳴る。


紛れもなく…生きている。


動いている。


皆と同じ…虚ろな顔をして、柾と手を…指を絡ませあって。



「絡ませ!!?」


2人の醸しだす空気は異様だ。


同性愛に特別偏見はないけれど…だけど、何だろう。


行為の割には表情がついていっていない。


樒は…なにやらぶつぶつと唱え、時折1人思い出し笑いをしていて。


各務の面々は…とにかく普通じゃない。


久遠は――居ない。


またハブられてしまったのか。

元より久遠は、他人の指示に従う従順さはないようにも思う。


懐柔が難しい…まるで気まぐれ猫のように。




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