あひるの仔に天使の羽根を
 

観客はそれらの人々と、あたしだけだった。


他は誰も居ない。



須臾も櫂も、他に誰も。



だけど――


襖の奥には、何かが居る。



異様な視線を感じるんだ。



嘗め回すような、不快な視線。


飾り立ては神社のように厳かだけど、流れる空気は邪悪だ。


あたしでも、判る。


あの襖を開けてやろうか。


それともここの舞台を壊してやろうか。


先に場所が破壊されれば、須臾は櫂を諦めるんじゃないだろうか。


あたしが取れる、さまざまな方法の可能性を考えていた時、



しゃん、しゃん、しゃん。



規則正しく…玲瓏な音を響かす鈴の音色が聞こえ、


2枚の襖が、すっと左右に大きく開いた。



現れたのは須臾。



赤と白の…定番の巫女服ではなく、赤地の布に金刺繍といった…どう見ても豪奢な着物を着て、頭にはしゃらしゃらと金色の簪(かんざし)をつけている。


綺麗だ。


うっとりとしてしまう程、美しく。


頬にあった醜い傷は何もなく、透き通るような白い肌が蘇っている。


どうみても…樒の母親には見えない程、若々しく…瑞々しく。




< 1,175 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop