あひるの仔に天使の羽根を
観客はそれらの人々と、あたしだけだった。
他は誰も居ない。
須臾も櫂も、他に誰も。
だけど――
襖の奥には、何かが居る。
異様な視線を感じるんだ。
嘗め回すような、不快な視線。
飾り立ては神社のように厳かだけど、流れる空気は邪悪だ。
あたしでも、判る。
あの襖を開けてやろうか。
それともここの舞台を壊してやろうか。
先に場所が破壊されれば、須臾は櫂を諦めるんじゃないだろうか。
あたしが取れる、さまざまな方法の可能性を考えていた時、
しゃん、しゃん、しゃん。
規則正しく…玲瓏な音を響かす鈴の音色が聞こえ、
2枚の襖が、すっと左右に大きく開いた。
現れたのは須臾。
赤と白の…定番の巫女服ではなく、赤地の布に金刺繍といった…どう見ても豪奢な着物を着て、頭にはしゃらしゃらと金色の簪(かんざし)をつけている。
綺麗だ。
うっとりとしてしまう程、美しく。
頬にあった醜い傷は何もなく、透き通るような白い肌が蘇っている。
どうみても…樒の母親には見えない程、若々しく…瑞々しく。