あひるの仔に天使の羽根を
 

櫂の後方に、影が揺らいで。


見れば――


相撲の行司のような格好をした荏原さんが現れ、櫂の手枷に触れて…鏡だの榊の葉だの飾られている…多分、神坐の前に座らせた。


神坐に対して真っ正面ではない…その微妙に横にずれた位置に訝しむあたしの前で、右の襖がすっと開いた。


どくん。


"何か"を視覚が確認する前に、脈打って警告を発したのは陽斗。



現れたのは――



「ななな!!!」



人型が壊れた…奇怪すぎる物体だった。



ぬめぬめと、いや…てらてらとした肌。

そこに埋め込まれた、斜めに位置する…あれは目?

口と思われる…ぱっくりと裂かれた部分からは、薄気味悪い沢山の牙を剥き出しにして…口端からだらだらと粘着性のある液を垂らして。


歩く。


歩けるんだ。



まるでアメーバやナメクジが這った痕のような、粘着が神聖なる神楽を穢す。


荏原の言うことを理解できるのか、指差された…櫂の隣で動きを止めた。


そして…奇怪な鳴き声。



「……り、…け……りり」




ああこれが。



煌が言っていた…



"生き神様"


男を食うという…此処の地の神?



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