あひるの仔に天使の羽根を


間近な"気配"。


「後はまかせたぞ」



俺がそう高らかに笑うと同時に、


「ひふみよいむなやこともちろらねしきるゆゐつわぬそをたはくめかうおゑにさりへてのますあせえほれけ」


空気を震撼させる、艶めいた声音の言葉が響く。


文字に乗って、空気が厳かな音を奏でているようだ。



ああこれが――



「え!!? 何!!?」



神道の奥義の1つである、言霊のバイブレーションというものなのか。



――元々神道の流れを汲む各務家に、布陣…"印形(シジル)魔術"を伝えたのは彼だ。



俺は…緋狭さんの言葉から、思い出したことがある。


各務は元々斎宮…伊勢神宮に仕える最高巫女の血に連なるものだと。


南北朝時代に斎宮制度自体は廃れたが、尊い血筋を温存したままに、子爵の位を持つまでの家柄となったが、斎宮としての"奥義"は子孫に伝承されたのだろう。


恐らくそれが、各務の奥底にある"力"の源流で、斎宮という女だけの世界で培ってきたものが…女尊男卑の礎だ。


そして今。


どんな風体であろうと、各務に流れる…紫堂に連なる"力"は健在だということ。



だからこそ、俺は今此処に呼び寄せたんだ。



「どうして!?」



連続して響く、芹霞の驚いたような叫び声。



そこには――




「久遠!!?」




死神のような装束を身に着けた各務久遠が、手にした大きな鎌を振り上げ――


そして――神楽にかけられた結界は破壊された。


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