あひるの仔に天使の羽根を
 

「お兄様、何故!?」


須臾の叫びを無視して、久遠は呆然としている芹霞の腕を掴んで神楽に乗り込み、


「久遠様、お止め下さい!!!」


制する荏原に久遠は、妖麗な顔で薄く笑い。


「いつから、"若"って呼ばなくなったんだい、荏原」


そして須臾の後頭部を鷲掴みにした。


「何を!!?」


須臾が激しい抗議の眼差しで、瑠璃の瞳をきっと睨みつける。


俺はそこから…何かの力の波動を感じた。



「無駄だよ、須臾。金緑石の使い手は、お前だけじゃない」



久遠の瞳が、瑠璃色から紅紫色へと変わり、



「だって、オレはお前の血を色濃く引いているものな。

なあ…母さん?」



そして久遠は――



「!!!」



須臾を仰け反らせるような、見事なディープキスを仕出かした。



抗うように投げ出される金の簪(かんざし)。


床に投げ打たれる黒い髪。


須臾の腰は砕けていき……久遠の背中に手を回したのは救済を求めたのか、雌の本能からか。



口を開けたまま、何も言えずに呆然としている芹霞の耳元で、



「俺も精進するよ、お前が腰砕けになるまで」



にやりと笑えば、



「ななななななな」



芹霞が真っ赤な顔で飛び上がった。



「……無駄口叩くな紫堂櫂。さっさと始めるぞ」



鋭い声に視線を向ければ、紅い瞳をした久遠。



「く、くく久遠…ねえ、何でそれ…それって」


芹霞はようやく状況に気づいたのか、久遠の格好を見て唇を震わせる。


だけど――その先を言わなかった。



< 1,186 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop