あひるの仔に天使の羽根を
「久遠は…久遠だものね」
きっと芹霞は判ったはずだ。
詳細は判らなくとも、久遠が決して綺麗な身体ではないことを。
そして久遠もまた、此処に来るまで余程の覚悟をしたはずだ。
「玲は?」
「ああ……他にやることあるって、お前…人使い荒いよな」
そうぶつぶつと文句を言いながら、
「始めるよ、須臾がイッてる間に」
「イッて…って? 須臾はそこに居るじゃない」
芹霞が須臾を指差し、純粋に久遠にそう尋ねるものだから、
「お前はまだ判らなくていいから!!!」
慌てて芹霞の声に被せるよう、俺は怒鳴った。
「え、何? 櫂は判ったわけ? じゃあ教えてよ。何だか凄く気になる。ねえ、"イッて"ってどういうこと?」
矛先が俺に向いて。
お前…俺の口からどう言わせたいんだ?
「ねえ、教えてよ?」
何故だか引き下がらぬ芹霞に、俺は溜息をついて。
「ああ、じゃあ今度。此処じゃない処でな」
途端。面白くなさそうな舌打ちの音に続き、久遠が集中始めた。
「掛巻も畏き産霊之大神達の奇しき神霊に依りて…」
そんな詠唱を止めようと動いたのは、荏原。
「させません!!!」
俺は比較的自由な足で、荏原の腹を蹴ったが…態勢を崩すまでにはいかなくて。
確かにこの重い枷は、体力と…何より紫堂の力を禁じるものではあるけれど。
それでも、老人でこの耐久力は"やはり"おかしい。