あひるの仔に天使の羽根を
取り囲んだ集団の…完全なる敵意と戦意が、1つとなってこちらに迸(ほしばし)る。
素人、ではない。
身構えた時、突如視界がぶれた。
「あ……ああ…り…け…り」
"生き神様"と呼ばれる奇怪な物体が小刻みに身体を震わせて、鳴声というべき…悍(おぞま)しい声を発した。
それは、硝子に爪を立てたような耳障りな不快過ぎる音で。
一番に反応した久遠は、
「ああ、集中が出来ない!!!」
そう言うと、床に置いていた大鎌を手にして、軽く振った。
「!!!」
音もなく…後方から奇襲をかけようとしていた、紫の神父の首にそれは振り下ろされ、その頭部は弧を描いて――"生き神様"の手…らしき突起の上に収り…
ぴちゃぴちゃぴちゃ…。
口らしき大きな裂け目からはみ出たような、紫色の突起物をちろちろと動かしながら、噴き出す真紅の液体を舐め取り始めた。
それはまるで、泣き叫ぶ赤子が乳にありつけたかのような穏やかさで。
久遠はそれを見ると、顔色1つ変えずにまた詠唱を始めて。
荏原が、くつくつと笑った。
「"生き神様"は空腹のようだ。儀式をお続け下さい、紫堂様。邪魔をされる気なら、こちらも少々手荒くさせて戴きますぞ? ああその前に。さあ、各務の方々を安全な場所へ」
荏原の指示で、給仕が、虚ろな表情を濃くした3人…樒と柾と千歳を更に奥の間へと案内して。
「おうおう、"生き神様"まで居るのかよ? こりゃあ食べ物に困らないな」
少しばかり警戒に満ちた声色放ちながら、煌は偃月刀を右肩に担いで。
「犬肉なんかおいしくなさそう」
桜が糸を指に絡ませながら、ぼそりと呟いて。
「だから俺は人間だっつーの!!!」
そして――
俺と芹霞を挟むように、煌と桜が背中併せで武器を構える。
「櫂、ここは俺達に任せろ」
「櫂様。これくらい楽勝です」
頼もしい警護団の言葉に、
「ああ、思い切りやれ。
荏原は俺が引き受ける」
俺は不敵に笑う。