あひるの仔に天使の羽根を
 

櫂が緑色の風の力を纏い、相殺しようと発光に放てど、幾分かの威力は落ちたものの…無効化させるまでにはいかず。


かといって闇の力を使えば、芹霞にどう影響出るかが判らぬ現状思えば煩悶するしかねえ。


やはり、捨て身で芹霞を庇いに走り出した櫂より早く、俺は既に後方に仰向けになるように飛んでいて。


身長がある分、櫂の動きより俺の身体の方が芹霞に速く到達したようで。


目を見開く芹霞の動揺を感じながら、俺は空中に飛んだ姿勢のまま、両手に強く握った偃月刀で、


「傷つけさせてたまるかよ!!!」


渾身の力で斜め下に叩き落とした。


軌道が逸れたそれは、やはり床にも吸収素材があるのか、特段の被害なく不自然なくらいすっと光を消して。


とにかくシロから放たれるものは、壁にぶつけた方が得策かも知れねえ。


「大丈夫か?」


俺の問いに、芹霞はこくこく小刻みに縦に首を振った。


ひとまず、胸を撫で下ろす。


気づけば桜が雑魚共を一掃し終わり、櫂の前に裂岩糸を構えていて。


3対1の闘いなら、荏原とて苦戦するだろうと思った時、


「いやあああああ!?」



芹霞の奇妙な声が聞こえて、俺達は慌てて芹霞に振り向いた。



喉元から発された黒い光が、まるで触手のように伸び拡がっていて。



須臾が何かしたのか!?


そこで気づくのは、意識をなくしているらしい須臾の裸の背中。


それに、何だか淫靡に指先で触れるのは久遠。


久遠の出で立ちは、いつか見た死神装束と…傍らに置かれた鎌で。


ああ、今はそんなことより。


「おい、芹霞どうしたんだよ!?」


芹霞に駆け寄り触れようとすれば、久遠が俺の手を払った。


芹霞が黒の発光箇所を増やして、宙に浮き始めた。


その顔は、まるでトランス状態のように虚ろで。


馬鹿な俺でも判る。


芹霞の邪痕に合わせて…生命の樹だとかいうものの順序通りに…何らかの力が放出されているんだ。





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