あひるの仔に天使の羽根を
久遠の顔が僅かに歪んだ。
まるで肯定のように。
「では仕方が無い。オレが取れる方法で行こう」
そう櫂は悠然と言い放ち、黙って俺達の会話を聞いていた荏原に顔を向ける。
「レグ=ヤッフェ。お前の魂胆は、氷皇も紅皇も既に判っている」
荏原は何も言わない。
「所属していた秘密結社で天使を探していたのは真実なんだろう。だが途中からお前は任務放棄をした。各務翁が連れ帰り、喰うという行為にて…歪んだ愛を示した天使を、お前もまた愛してしまったから」
ただ、何かを思い返すように遠くを見ている。
「ようやく妻に出来た天使は実は藤姫で、彼女の私的な"永遠"形成に協力しないお前を、逆に懐柔しようとしていたことに気づいた時には、不貞の妻に裏切られ、子供は死に…第2の人生は破綻していた。
用無しと藤姫に捨てられた愛しい肉体の主は、生きたまま各務翁に喰われ、子供の代わりにと開発した人工知能は停電でおかしくなり。
そこで思いついたのは、電子と天使の融合。藤姫を取り入れた天使の肉体はまだ生きていられるのなら、自意識を持った人工知能が天使の思考を凌駕すれば…愛する肉体で愛する我が子が蘇生出来る。
完全なる人間…それは神人アダムカダモンの復活に相違なく。
だからこそ、あえて此の地の二元論…反と成すものの合…それに生じる力を、"生命の樹"或いは"邪悪な樹"に利用した」
肯定、か?
「各務家は…私には好都合の家。そこのお嬢さんが、13年前に協力してくれたおかげですね。それが何を意味しているのか、久遠様はお判りでしょう?」
そんな意味ありげな眼差しを、無表情の久遠に向けて。
「久遠様。私との契約を破り、何故動かれました?」
契約?
「須臾は……母さんはやり過ぎたんだ」
「か、母さん!?」
思わず裏返った声を出してしまう俺。
「そうだ、煌。だから、"生き神様"に寄り添える巫女は須臾だけなんだ」
櫂が静かに言った。