あひるの仔に天使の羽根を
 

「すこぶる快調。おかげさまで」


親指を立ててそういうと、櫂は微かに微笑んだ後、切なげな目をした。


「――痩せたな」


櫂の指が、あたしの頬を滑り落ちる。


ひんやりとした指の感触。ぞくっとするような痺れを感じて僅かに目を細めると、何をどう受け取ったのか、櫂は嬉しそうにふわりと笑った。


ああ、来る――。


それは撒き散らすような玲くんのものとは違う、


奔流のように押し寄せる煌のものとも違う、


こちらから強く惹きこまれていきそうな、吸引力抜群の色気。


しっかり捕えて離さない、真っ直ぐすぎる色気。


実はあたしは、それが不得手だ。


どうしていいか判らない。


櫂だから。


櫂なのに。


身体が緊張して、心臓がうるさくなる。


意識する前に、身体が過剰反応してしまう。


すると櫂は静かに自分の動作を鎮め、哀しげな顔であたしを見つめる――それが最近のあたし達。


その時、突き刺すような視線を感じてあたしは周囲を見渡した。


あたしを掴んでいた手をぎゅっと握り締めながら、何か言いたげにこちらを見つめる褐色の瞳と、


気だるげに壁に背をもたれさせながらも、鋭く思える程の冷たい視線を寄越す鳶色の瞳。




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