あひるの仔に天使の羽根を
すると久遠が溜息をついた。
「帰すよ、お前は。オレがこの先、何をしようとしているか判っているはずだから」
それは小馬鹿にしたような笑いだったけれど。
「もう須臾は壊れてしまったからね。だとしたら…お前が蘇らせたい"あれ"の血を引く者はオレしかいない。だから…止められないよ?」
それに対して、白皇は何も言わずに。
「オレはね、どうでもいいんだよ。もうホント。各務はおままごとの家柄だからね。祖父が何を喰らおうと、父親が幾人の女に子供を孕ませようと。そして産まれた妹が弟が好きでも、弟が叔父さんと出来ていても、母親と息子との間に化け物が生まれても。どうでもいい」
心が冷えるような瑠璃色の瞳。
「もう…オレがいる意味ないだろう? オレは今まで待って…やることはやった。果たすべきことは果たした。だから…行かせろよ」
それは何処までも冷たい声だったけれど。
「……駄目」
そんな時、泣くような…芹霞さんの声が聞こえた。
皆が驚いて振り向けば、そこには…依然黒い光で宙に浮いたままだけれど、辛そうな顔で久遠を見つめる芹霞さんが居て。
「久遠、"それ"だけは絶対駄目」
強い瞳。
「そんな為に、久遠は"生きた"わけじゃない」
「……芹霞?」
櫂様の訝しむ声。
そんな時だ。
変わる――
「出来るわけないだろうが!!! "邪悪な樹"10カ所の魔方陣、力と武力で同時破壊なんて!!! それが出来ていたらオレは!!!」
久遠の瞳の色。
瑠璃の青さから、激情の赤に。
「これしかないんだよ、せりを助けられるのは!!!」