あひるの仔に天使の羽根を
 

酷く、心が痛む。

久遠が芹霞さんの腕を掴んでいて。


芹霞さんも触れられる状態になったのだと、そんなことを暢気に考える余地などなく…


ただただ――


芹霞さんを"せり"と呼び、"せり"と呼ばせる男が存在することに。


櫂様!!!


慌てて見た櫂様の切れ長の瞳には、やりきれないような嫉妬の色が濃く。


そして私の隣にいる褐色の瞳も同様に…痛ましく。


だけど芹霞さんと久遠には、2人が動けないくらいの切実さと…親密さがあるから。


「……駄目だから」


誰にも意味が判らない芹霞さんの言葉。


判るのはきっと久遠だけで。


芹霞さんは、顔を歪ませながら上体を起こして。


「無理だ、せり!!! 抵抗するな!!! 流れに逆らわず、身を任せていろ!!! あの時みたいに!!!」


あの時?


「久遠。あたしはあんたにイロイロ謝らないといけないことがある。だけどね…その前にこれだけは言いたい。

ありがとう。

そして櫂を信じて?」


そして芹霞さんは、徐(おもむろ)に櫂様を見た。


その表情には…


「櫂なら、出来るんだよね?」


久遠に向けているような親密さはなく。


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