あひるの仔に天使の羽根を

「そんな条件出すな!!! 久遠に、此の地に…関わり合うな!!!」


掠れきった怒声。凄惨な顔だった。


櫂様も感じているのだろう。


芹霞さんが"何か"を思い出していることに。


だけどきっとまだそれは完全ではない。


…切り離せられるとしたら、今のうちで。


「櫂。これは櫂には関係ないことなの。あたし達の問題」


"あたし達"


そこには櫂様も…私達もなく。


芹霞さんの中にあるのは…


「もういいから、やめてくれ、せり!!!」


――久遠。



「いいえ、あたしは引かないわ。

選んだのは――あたしなの」



「芹霞!!!」


絶えきれず、伸ばされた櫂様の手は、



「ごめん、櫂」



音をたてて弾かれて。



「"ごめん"って、何のごめんだよ、芹霞!!!」


私ははっとして。



「煌!!! 櫂様を止めろ!!」


だけど駄目だ。


煌もまた…同じような顔つきで。


だから私が櫂様を羽交い締めをした。


このままなら櫂様は、壊れてしまう。


そんな予感がしたから。


馬鹿蜜柑は…状況を理解しているのか。


褐色の瞳は……虚ろで。
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