あひるの仔に天使の羽根を
だけど芹霞は、儚い笑いを浮かべて僕を見て。
それは嘲りではなく、哀れみのよう。
櫂の手を払い、僕には笑って拒み。
その変化を感じ取っているだろう煌の顔は、瓦解寸前で。
とにかく。
いつものように、僕達が邪魔すれば何とかなる…そんなお気楽な場面ではないことを、誰もが感じ取っていたんだ。
そして向けられるのは、久遠への責めの眼差しで。
確かに此の場を救える人物だからと、助力を懇願したのは僕達。
だけど。
だからといって、芹霞を奪うなよ、久遠。
そんな結末は、櫂でさえ予想していなかったに違いなく。
久遠がどうのというのはある程度覚悟があったとしても、芹霞の豹変は本当に想定外の出来事で。
ああ、だからこそ。
芹霞が何かを思い出すことで、今を忘れて僕達の知らぬ世界に行ってしまったらと…そう危ぶんだからこそ、芹霞の13年前の記憶を戻すという解決策を誰もが却下してきたんだ。
それが。
こんなに早く、こんなに呆気なく。
櫂の顔からは血の気が引いていて。
「あたしも、此処に…久遠と一緒に居ていい?」
荏原…白皇に言ったのは芹霞で。
「駄目だ!!!」
それを荒く制したのは櫂で。
「僕達と行こう?」
優しく制したのは僕。
「時間が…ねえんだよ。行くぜ?」
強制的に終わらせたのは煌。
それでも納得いかないようにちらちらと久遠を見る芹霞に、
「芹霞。俺達は…俺は、絶対譲らねえからな!!!」
そう煌が苛立たしげに怒鳴って、芹霞を肩に担ぐ。
「早く行きましょう!!!」
桜も強張った声で先を急かす。