あひるの仔に天使の羽根を
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「ご気分はどうです?」
目覚めた僕を見つめていたのは、アーモンド型の目。
榊だ。
上体を起こした僕は、
「?」
鎮まっている心臓に手をあて、首を傾げた。
「ニトロは、我が主からのプレゼントです。万が一の為にと、私が携帯しておりました。一応予備を、ポケットに入れておきましたよ」
にっこりと笑う姿には、最後の時に見たような…憂いさは何も無く。
「由香ちゃんは…大丈夫だったんだね?」
「ええ、お陰様で」
安否を確認しただけではないのだろう。
何かの強い意志が宿っていて、安定感がある。
闇から抜け出したかのような、清々しさがある。
ああ、由香ちゃんとの関係が前進したんだな。
それが妬ましい程、羨ましい。
思わず目を細めた僕に――
「このままだと――忘れ去りますね。
真実の前には、虚偽の"ママゴト"は不必要」
僕が受けている、残酷な現実を突きつけてくる。
本当に、優しくない男だ。
「あの娘の"永遠"は、紫堂櫂に元々向けられていたわけではない」
そう言い切ったのは…その知識の出所が確かなものなのだろう。
氷皇あたり…緋狭さんとかから聞いていたのか。
「紫堂櫂は…"偽装"。その"永遠"は…あの娘の擬態。忘れてはいけない真実を忘れてしまう自分への、せめてもの抵抗、そして誤魔化し」