あひるの仔に天使の羽根を
そこに現れたのは榊と遠坂。
榊は玲を手当をするから、遠坂と先に行けと俺達を急かした。
本当は皆玲の傍に居たかったけれど、
「時間制限があるんでしょう!!?」
そうだ、そうなんだ。
「頼む。玲を回復して戻してくれ。玲が必要なんだ」
苦渋の色を顔に出した櫂は、榊にそう言って階段を駆け下りた。
櫂だって玲が心配で堪らねえはずだ。
だけどよ、俺が玲だったら思う。
自分に構っている暇あったら、芹霞の為に急いで欲しいって。
足手纏いになりたくはねえって。
判るからこそ…俺達は玲を背にしたんだ。
絶対、また元気な顔を見れる。
そんな確信があったから。
肩の上がおとなしい。
いつもだったら、玲くん玲くん煩いだろうに、首を捩って見てみれば、そう言ってはいけないというような堅い表情をして押し黙っている。
そしてぼそりと漏らしたんだ。
「久遠……あたし…」
ほろりと流れる涙に、俺の心は焼け付いた。
俺に触れているなら、心情察しろよ阿呆タレ!!!
久遠心配する前に、もっと心痛めることあるだろうがよ。
俺の心は――伝わらねえ。
はらはらと零れ堕ちる涙に、桜も櫂も息を飲んであさっての方向。
各々自制する心が大きいこと、その歪んだ顔つきから判る。