あひるの仔に天使の羽根を
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地上についた時、異常な興奮と熱気に驚いた。
「何だ……これ?」
塔を取り囲むように、様々な階級の大勢の女達が集まっていて。
鬼気迫る…狂喜に満ちた顔つきは、まるで"狂信者"のようで。
ぎらぎらと血走った眼差しの先は、塔の頂上。
皆何かを求めるように、両手を挙げて…奇声のような声を発していて。
奇声を言葉にするならば、"禁断の果実"と言っている気がする。
イクミの言葉信じるならば、確か祭りにそんなものが出てくるはずだったが、此の様子ならば…本当のことだろう。
「此の分だと、祭は本当に直ぐ始まりそうだな」
櫂がそう呟いた時、なぜか肩に居る芹霞が、俺の服をぎゅっと掴んだ。
「芹霞……?」
聞けども答えはなく。
「"禁断の果実"とは何でしょう?」
桜が櫂に聞いた。
「多分だが…有翼人種…天使の肉片だと思う」
俺は目を細めた。
「天使の肉?」
「ああ。此の地で、月や旭を悪魔とみなし忌み嫌っているのは、恐らく関心を集めさせないため。そして偽りの楽園"約束の地(カナン)"における最高の贅が、永遠を囁く禁断の果実…基督教では悪魔、グノーシス教では天使ががもたらした、知ってはいけない禁忌の味…有翼人種の肉なんだろう」
「なぜそんなものを一般の人間に!!?」
桜の声に櫂は薄く笑う。
「"一般の人間"ではないからさ。過去の甘い記憶を呼び起す…そんな禁忌の味を取り合う際に生じるエネルギーは、蠱毒にも似た…"邪悪の樹"の力を何よりも短期間で増大させるのだろう。理性より本能が大きな力を生じさせるとすれば…此の地でも罪とされる7大悪から消えていたという"暴食"も、鏡蛇聖会が基督教と宗派が違えるからという理由より、余程意味ありげに思えるがな。
何より"食べる"ことに意味を持たす様は…2ヶ月前に見知っている」
「おい、櫂。何だか…まるで此処の連中が、過去天使を喰っていたみたいじゃねえかよ」
「天使を…というより、同種喰いだ」
ざわり、とした。