あひるの仔に天使の羽根を
そして煌の増幅力。
煌がいなければ、メインコンピュータの補助がない今の僕にとって、猛速度で"コード変換"したとしても、思うような衛星の力を引き出し制御することは出来なかっただろう。
煌のおかげで、暫定的な準備だけしか出来なかった僕が、衛星の力を誘導出来たんだ。
煌はやれば出来る奴だ。
卑屈な要素など何もない、それに全く気づいていない…そこが可愛い奴。
推し量れぬ潜在能力に、桜も触発されたようで…顔つきが変わった。
そして、衛星の力に匹敵する櫂の闇の力。
"約束の地(カナン)"全土に根を張らせることが出来る…底知れぬ力。
衛星のエネルギー容量に合わせられる余裕すらあって。
櫂は、僕の予想をいつも簡単に超える。
予想以上の"完璧さ"で、必ずやり抜く男。
そして確かに僕も、魔方陣を破壊出来たという、手応えを感じたというのに。
まだ効力は引き続いている。
そんな感は拭えない。
11番目の隠しセフィラ。
生命の樹と邪悪の樹を繋ぐ、1つの塔。
それが此の地の"異質"の元凶だとしたら。
それを何とかすれば、芹霞は元に戻るだろうか。
そんな淡い期待を寄せてしまう。
だけど判っている。
思い出した記憶は、無かったことには出来ない。
そして薄れ行く記憶を、止めることは出来ない。
こんな流れの先にある結末なんて、僕達は望んでいない。
だけど芹霞はどうだ?
僕達を積極的に弾こうとしている芹霞は?
今の彼女の中に、僕達は見えているのだろうか?
「ねえ師匠。神崎の邪痕は…かなり薄れている。
ぼんやりとした顔つきが多くなっていて、時折頭を振るようにして、記憶を呼び覚まそうとしているんだ。このままだと本当にもう邪痕は完全になくなり――ボク達忘れられちゃうよ。
邪痕を消したかったはずのに、完全に消えたらボク達は!!!」
由香ちゃんは唇を噛みしめて俯いた。
「それにボク…酷く嫌な予感がするんだ」
上げられたその顔は、酷く強張っていて。
「神崎…何か決意しているよ?」