あひるの仔に天使の羽根を
そんな由香ちゃんの不穏な声が響いたのは、塔の入り口に行き着いた時だった。
塔の内部に押し入ろうと、団子状態になっている生きる屍達。
そんな敵を薙ぎ払っていた、煌と桜の動きが止まった。
「チビ?」
煌の声に、横に目を向ければ、場には異質な小さな影。
月――
否、旭か?
真っ直ぐ芹霞の元に歩んでくる。
そして何かを訴えるような、澄んだ瞳で芹霞を見上げて。
「せりかちゃん」
淀みないその口調は、間違いなく旭のもの。
「旭くん…。いや…昔のように、旭…かな?」
芹霞が屈み込んで、旭の顔を覗き込む。
途端、旭の顔がくしゃりと…哀しみに歪んだ。
「せりかちゃん……」
震えた声。
「せつなさまを…たすけて…」
ぽろぽろと、頬を伝って流れ落ちる涙。
旭は泣いていた。
「……わたしたちをたすけて…」
小さな胸の前に組まれた両手は、まるで芹霞に祈るかのように。
「大丈夫。あたしは戻ってきたから」
そう芹霞は微笑んで。
「今までごめんね。
約束、果たすからね?」
約束?
「皆を解放してあげるから」