あひるの仔に天使の羽根を
決意だ。
芹霞の決意。
それに底知れぬ不安を感じた僕は、思わず芹霞の腕を掴んだ。
「ええと…何?」
向けられた…困ったような笑顔の中にあるのは、毅然とした拒否。
もう触れさせもしないつもりなのか。
僕を……拒むんだ?
僕は……いらないんだ?
ああ……やりきれないな。
僕は強引に彼女の身体を引き寄せた。
態度とは裏腹に僕の身体が感じるのは、変わらぬ心地よい芹霞の体温。
切ないまでの愛しい…匂い。
それは――変わってないんだよ?
頬にまだ光る、あの涙の名残。
もしそれに賭けることが出来るのなら。
僕は耳元に囁いたんだ。
「ねえ、芹霞。僕達のこと…まだ完全には忘れてないんでしょう?」
腕の中の確かな反応。
「僕には、君をこうする権利があるよね?
覚えてる? 僕の想い。僕を選んでくれたこと。
僕達まだ、始まってないんだよ?」
それが例え"お試し"…終わること前提で始まった絆だろうとも。
「僕は、終わることは考えていないんだよ?」
芹霞は――
「……何のこと?」
突き放すような眼差しを寄越した。
忘れたフリ?
それとも本当に忘れているの?
ああ、もう。
自滅かよ。
僕との絆は即解消?
僕に襲われても繋いでくれたあの絆は、あの男の前には無力なの?
櫂よりあの男が勝るの?
あの男が――
「久遠が――
刹那だったの?」