あひるの仔に天使の羽根を
僕の声に、周囲の時間が止まったように思えた。
そしてゆっくりと動き出す。
黙々と…倒しても起き上がる屍の相手をする煌と桜。
櫂はただ俯いて。
由香ちゃんはそんな様子を見て、頭を抱えていて。
皆だって感じているんだろう?
"約束の地(カナン)"で誰もが恐れた"刹那"の存在。
そして久遠に感じている不安は、それと同種のものなんだ。
判っていても。
誰も何も言わない。
芹霞も何も言わない。
なあ、櫂。
お前…言い難そうだから、僕が言って上げる。
だから、腹括れよ?
揺れるなよ?
「ねえ芹霞。
僕は君が欲しいものは全てあげたいし、君が望むものは皆叶えてあげたい。
だけどね、僕にだってどうしても出来ないことがある」
僕は、真っ直ぐに芹霞の瞳を覗き込む。
「駄目だよ、離さないよ。
あいつになんか、僕はやらない」
罵りたいならどうぞ。
だけど泣いたって叫んだって、それは譲れない。
もう判ってよ、僕の気性。
優しさだけで、僕は出来ていないんだよ?
「僕にとっての真実は、
櫂を永遠だと叫んでいた君だから」
君の望む永遠の先が、例え僕には繋がっていなくても。
僕との出会いが、例え櫂から派生したものであろうとも。
そんな君だから、僕達は巡り合えたんだ。
そんな君だから、僕は愛したんだよ?
「忘れたなら思い出させてあげる。
思い出せないのなら、何度でも何度でも出会ってあげる。
幾ら…僕達を捨てて、あいつと生きようとしてもね?」
芹霞の瞳が――
肯定するように激しく揺れた。